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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)2657号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁各人天野末治の上告趣意中判例違反を主張する点について。

たばこ専売法七五条は、犯則物件またはこれに代るべき価額が犯則者の手に存することを禁止するとともに、国が、たばこの専売を独占し、もって国の財政収入を確保するためとくに、必要没収、必要追徴の規定を設け、不正たばこの販売などの取締を厳に励行しようとする趣旨であると解せられるから、同法七五条二項にいわゆるその価額の追徴とは、現実の取引違反の価額の如何にかかわらず、その物件の客観的に適正な価額の追徴を意味し、当該物件が日本専売公社によって定価の公示された製造たばこ(輸入製造たばこを含む)にあたると認められるものについては、その価格により、公示された定価のないものについては、客観的に適正と認められる価額によるとするのを相当とする。

原判決は、たばこ専売法七五条二項の「価額」とは、犯行時の時価と解すべきところ、昭和二六年一二月二九日日本専売公社公示一〇号により昭和二七年一月一日以降ラッキー・ストライクの小売価格は二〇本入一箱一三〇円と公示されているので、特段の事情のない限り昭和二七年一月一日以降はこれを時価と解すべきであるとして、被告人伊藤より同被告人が昭和二七年二月一〇日頃から同年七月一〇日頃までの間に輸入製造たばこラッキー・ストライク合計七七〇個を不法に所持した事実につき一箱一三〇円の小売価格で算出した一〇万一〇〇円を追徴し、被告人松沢より同被告人が昭和二六年一一月一〇日頃から同年一二月二九日頃までの間に前同様のラッキー・ストライク合計二五〇個を不法に所持した事実につき第一審判決挙示の証拠により一箱八〇円の価格を時価と認められるとして、この割合で算出した二万円と昭和二七年一月二日頃から同年七月一三日頃までの間に前同様のラッキー・ストライク合計六六二個を不法に所持した事実につき一箱一三〇円の右小売価格で算出した八万六〇六〇円を合計した一〇万六〇六〇円を追徴する旨の言渡をした第一審判決を是認したものであることが、その判文上明らかである。そして、原判決は、たばこ専売法七五条二項の価額を犯行時の時価、すなわち犯行時の相場、もしくは犯行時の市価と解すべきとしていること前示のとおりであって、前段の説示と一致していないけれども、同判決は、当該物件が日本専売公社によって定価の公示された製造たばこにかかるものについては、その小売価格を時価と解するとしており、また第一審判決挙示の証拠によると、被告人松沢が不法に所持し、日本専売公社によって公示された定価のない右ラッキー・ストライク二五〇個の客観的に適正な価格は一箱八〇円であると認められるから、原判決が前記のように一箱八〇円をもって時価と認めるとしたのは、前段に説示したところと結論において異るところがない。してみれば原判決は、論旨引用の名古屋高等裁判所判決と相反する判断をした違法があるけれども、右の違法は判決に影響を及ぼさないことが明らかであり、原判決を維持するのを相当であると認められるから、論旨は採用できない(なお、所論引用の名古屋高等裁判所判決は、本判決に抵触するかぎり判例としての効力を失ったものである)。

その余の論旨は、量刑不当と事実誤認を前提とする法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

よって同四一〇条一項但書に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克)

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